会いたいけど、会えない。
貴方を想いながら、空ばかり見ていた。




そばにいられるなら




もう遅くなってしまったけれど、伝えたい言葉があった。

今更伝えるべきではないのかもしれないけれど
このままこの恋をなかったことにしたくなかった。
時間が解決してくれるのを待つのが、嫌だった。

傷つくのは怖い。
甘くて楽な方法に逃げるべきかもしれない。
これ以上ぼろぼろになっても、ダメになってしまっても
そばにいられる唯一の方法がなくなってしまったとしても。




私は英二にただ一言、すきだと伝えたかった。









転校してきたばかりの私になにかと世話を焼いてくれたのが
席が近かった菊丸くんだった。第一印象は明るいひと。
教科書を見せてくれたり、学校を案内してくれたり。
私が学校に慣れてきてもなんだかんだいって構ってくれて
気がついたら、クラスメイトから仲の良い友達になってた。

不二くんとも仲良くなって、三人でいることが多くなった。
女の子の友達もできたけど、三人でいるほうが楽しかった。
人気者の二人と仲良くしてるから、と嫌がらせもされたけど
そんなことされても、ちっとも気にならなかった。




一分でも一秒でも多く、英二と一緒にいたかった。




英二のことがすきだった。一緒にいれればしあわせだった。
いろんなことを話して、笑って、ふざけあって、それでよかった。
あのころは、一緒にいるだけで景色がキラキラって輝いて見えた。




付き合いたいと思っていなかったわけじゃなかってけど
もう少しあとでもいいんじゃないかって、思ってた。

英二のことを想ってる人は、沢山いたのに
どうして、そんなことを思ったりしたんだろう。

きっと、毎日のどこかで少しずつ間違いは進んでた。









朝一番に彼女が出来たんだ、と告げられて頭が真っ白になった。
それを告げたときの、少し照れくさそうな表情が見れなかった。

おめでとう、と言うべきだったのかもしれない。
笑って、そう言ってあげるべきだったのかもしれない。

でも言えなかった。笑うことなんかできなかった。
友達のフリをして、笑っておめでとうなんて、言えない。



「そう…なんだ」



表情を知られないように、俯いてこう言うしかできなかった。
なんで泣きそうな顔してるなんて聞かれても、答えられない。

ふっと体の力が抜けて、持っていた教科書を落としてしまった。
バサバサ、と床と衝突した音がやけに大きく、頭の中に響いた。



「あーあー、なにやってんの。ドジだなー」

「……………ごめん」



そのあと、なにを話したのか覚えてない。
あっとういうまに放課後になって、教室からは人がいなくなった。
早送りみたいに過ぎていった一日で最後に見えていったものは
あの子と一緒に、しあわせそうに笑って帰っていった英二の後姿だった。

手をふられて、バイバイって言われた。聞こえないフリをした。
朝とまったく変わらない。無理だ。やっぱり私は笑えなかった。

わからなかった自分の間違いが、だんだん明らかになっていく。









誰もいない教室で、私はオレンジ色に染まりかけた空を見ていた。
考えないようにしていたつもりだった気持ちが、浮かんでは消えていく。

涙がこぼれそうになる。必死に隠してきた気持ちが、止まらない。

なんで言えなかったんだろう。なんで間違いに気づけなかったんだろう。
なんでもっと早く……………なんで、なんで、なんで。

目頭が熱くなる。
泣けば少しは楽になれるかな、そんなことを思う。
学校がオレンジ色に染まる。私の涙も一緒に染まっていった。









次の日は土曜日で学校は休みだった。
目が覚めて、今日は休みなんだって思うとほっとした。
軽く目をこすって、ベッドから体を起こして枕元の携帯を手に取る。

『未読メッセージが一件あります』

昨日帰ってきてからメールが届いたけれど、開こうとは思えなくて
いつもはすぐ返していたのに、携帯ごと置き去りにしてしまった。

英二からのメールをとめてしまったのは、他でもない私だった。




すべてなくなってしまうのかな。
英二と過ごした時間はなかったことになるのかな。
きっと、このまま私が動かなかったらそうなってしまう。

だけど、どうすればいいか、わからないよ。
無理して笑って変わらずに英二の隣にいるのか。
それとも、今更ふられるってわかってて、告白するか。




ふたつにひとつ。




とても決められない。でも、このままじゃだめなんだ。
なにも変わらないまま、なくなったことにしたくない。
英二といた時間がすべてなくなってほしくなんかない。

この恋をなかったことになんかしたくない。
英二をすきで、私はしあわせだったんだから。









英二に、会いたい。
もう他の人のものだってわかってても、会いたい。
初めて会った日のことを鮮明に思い出せるくらい、すきなの。

困らせるだけって、わかってる。
この恋を終わらせるための自己満足だってことも。だけど。

カーテンから光が差し込んだ。
天気は晴れで、空はきれいなスカイブルー。
英二に初めて会った日。青学に初めて来た日もこんな快晴だった。

話しかけてくれて、本当にうれしかったんだよ。
英二の笑顔にどれだけ安心したか、知らないでしょ。




あの日から、きっと恋してた。今まで、ずっと。









携帯を開いて未読メールを読めば、また泣きそうになった。
私の様子がおかしいと心配してくれた、メール。
どうして、こんなにも英二はやさしいんだろう。

返信のメールを打てば、すぐに返事がかえってきた。
こんな些細なことが、今まで当たり前だったことが、うれしい。

ずっと言えなかった言葉、本当はメールなんかじゃなくて
ちゃんと英二の目を見て直接を伝えたかったけれど。

今の私じゃ、とてもできそうにないから。




カーテンを開けて、窓の外を見た。
その青さを後押ししてくれているような、そんな気がした。
10文字にも満たない言葉に、出会ってから今までの気持ちを込めて。

目を瞑って、そっと送信ボタンを押した。




ずっと英二のことがすきでした。
ずっと隣で笑っていられたらいい、と思っていました。
友達のままでいい、これからも貴方の傍にいられるなら。

だからその手で、私のこの恋をどうか終わらせて。




−Fin−




前サイトより。IMAGE SONG 「そばにいられるなら」/宮本駿一




/05/07/19/