空を飛びたいって本気で願えたのはいつまでだっただろう。 自分は空を自由に飛べるんだって信じてたのはいつまで? 現実を知って、絶望して、それに蓋をして誤魔化したのは? 飛行機雲 こんなことを繰り返し始めたのはいつから?いつから俺はこうなった? 「もーちょっと、聞いてる?」 「あーはいはい…きーてるきーてる、きーてますー」 好きだって言われて。顔とスタイルが好みだったから付き合って。 最初はそりゃあ、それなりに可愛いって思ったりはするけど。 何がどうしてどーなるのかわっかんないんだけど。 こんな気持ちが浮かんでくるのか…俺にもわかんないんだけど。 ああ、もーいーや。めんどい。 「………ね、」 「なあに?」 「別れてくんない?」 急に「付き合う」って行為が面倒になる。つまんなくなる。 かかってくる電話とか、いちいち返信しなきゃいけないメールとか。 彼女ヅラしてまとわりつかれることとか、休日を束縛されることとか。 全部面倒になるから、やめてしまう。よくないことだと、わかっていても。 「え………い、ま…なんて…」 「だーかーらー、俺と別れてって言ってんの」 俺がわかりやすく溜息をついて、だるそうな表情を作ると。 やっと何を言われてるのか理解して、彼女の表情が雲ってゆく。 「さいってー!」 それから、怒りに燃えた表情に変わり。 その一瞬後。ある程度想像はしていたが、頬に痛みが走った。 …じんじんする。頬が熱くて、思わず頬に触れた。 「いってー………」 何すんだよ、という言葉を紡ぐ前に、彼女はそのまま屋上を出て行った。 泣いてるのかな、と思ったけど。特に罪悪感を感じるわけでも…なかった。 だから名前を呼ぶでもなく、手を伸ばすでもなく。 ただ、その場に座り込んで。熱を持った頬を優しく擦りながら 青空を見上げて、あーあ、とさっきとは違う種類の溜息をついた。 結局名前もちゃんと呼ばなかったなぁ。まぁ、覚えてもないんだけど。 …他のクラスの、誰かとしか、酷い人間だと自分でも思う。 どうでもいいんだ。別に本気で好きなわけじゃないし。 そういったら皆、呆れたっていうか変な顔をして俺を見るけど。 しょうがないんだよ。 俺…菊丸英二って言う人間の本質はこういうのだから。 適当な外面に騙されてるだけで。ま、騙されるのが悪いけど。 ごめんね、君が望んだ「明るくて可愛い菊丸英二君」じゃなくて。 ずっと見てたとか言ってたくせに、本当の俺のこと理解しなかったけどさ。 ちっとも知ろうとしてないくせに、何好きとか恋とか言っちゃってんの? …ああ、面倒。好きとか嫌いとか、付き合うとか別れるとか。 なんで俺こんなのに付き合ってるんだろ。おままごとの恋愛に。 ………つまんないから。 きっと、そうだ。その答えしか出てこない。 部活も引退して、来年の春まで必死にやることがないからだ。 恋愛さえにもならない、この「お付き合い」は、ただの暇つぶし。 ただ思われるだけの、片方しか向かないおままごとは今だけ。 せいぜい次の子は俺が煩わしく思わない子だったらいいなぁとか。 勝手なことを思って、屋上に一人で床に寝そべった。 幼稚園とか小学校とかは好きな子いたような気がすんだけどな… どこをどう間違って、ここまでひねくれたんだか。と苦笑する。 少し寒かったけど、落ちてきた瞼に逆らわずに意識を手放した。 その向こうで授業の開始を告げるチャイムが鳴ったような気がした。 あーもーいいや。間に合わないし、ほっぺ痛いまんまだし。 どうせ不二にまたうるさく言われるに決まってるから、サボろ。 別に、俺だってこのままでいたいわけじゃない。 人並み程度に、悲しいとか嬉しいとかムカつくとか楽しいとか持ってるし。 だけど、誰かを傷つけてしまうのは止まらなくて。止められなかった。 飛行機の爆音が聞こえて目をあけたら。 空色のキャンバスにまっすぐな白線が描かれていた。 どうしようもなく。胸が痛くなって、目を閉じた。 別に俺は、泣いてなんかないって必死に言い聞かせた。 060905/飛行機雲 |