どうして彼女が泣いたのか
どうして叩かれたのかわからなかった。
声を掛けようとしたけれど逃げられてしまった。

別に怒ったわけじゃない。ただ、驚いただけ。
これくらいの痛みは大したことじゃないし(実際先程の戦闘時の傷の方がずっと痛い)
それよりも、気になるのはあの彼女がどうして僕のことを叩いたのか―その理由だ。

自惚れかもしれないけれど、嫌われてるとは思えなかった。
特派の中で唯一の同じくらいの年齢で、よく話をしていた。
…と言っても、彼女は自分からあまり話すタイプではないので
僕ばかり話していた気もしなくもないけれど…嫌がられてはないはずだ。
最初こそ警戒されていたものの、時折話かけてくれたり、笑顔を見せてくれた。

それだけと言ってしまえばそれまでだが、嫌いだから叩かれたという選択は捨てたい。
(それにいくら嫌いでも彼女は怪我をした自分に何も理由もなく手を上げるはずがない)

だとしたら。



「…どうして僕はに叩かれたんでしょうか」

「さ〜ぁ?」



当然、彼女が居るわけではないので答えなど返ってこなかった。
ですよね…と肩を落とすと、セシルさんが少し困ったように笑う。



「心配…だったんじゃないかしら?」

「心配?僕を?」

「スザクくんがまた無茶をするから…」

「…自業自得…ってことですか?」



よく、わからない。
僕が無茶すると、彼女は泪を流して僕を叩くということが。
でも、無茶をしたのは任務を達成するためで軍人としては当然のことだ。



「僕は軍人で、任務を全うするのが仕事であるわけで…」

「それは確かにそうよ。でも、やり方というものがあります。今回はやりすぎよ」

「そうそう。僕のだぁいじなランスロットに何かあったら困るんだからね?わかってる?」

「2人とも。そういう問題じゃありません」

「……………すみません」



そういう問題じゃないらしい。
きっとセシルさんが言うのだから、そうなのだろう。
もし、ルルーシュならば。いつものようにあっさりと答えを導くんだろうか。
疲れたのか、少しぼんやりしてきた意識の中そんなことを思った。



「まぁ…ちゃんの気持ち…わからなくもないけど」

「え?」

「はいはぁーい、スザクくん今日はもう帰って良いよ。顔色も良くないしねぇ。
 本日の戦闘の反省は自室でゆっくりどうぞ?明日は学校に行くんだろう?」

「あら…やっと人を気遣えるようになったんですねぇ」

「それに肩の傷とー頬。冷やした方がいいよー?痛そうだ」

「はい…では、ロイドさん、セシルさん。今日は失礼します」



自分にとって一番近しい上官である2人に一礼をして部屋の外に出る。
確かに肩と頬、両方じんじんしてきて結構痛い。後で氷を貰ってこよう…

体力がとりえなのに多少ふらふらしてる自分に、苦笑いを零す。
こんなものじゃ、自分が望んでいるものにちっとも届きはしないのに。
まだまだ、もっと。他人だけじゃなく自分も誤魔化せるようにならないと。

俺は心配なんかされるような人間じゃないんだから。
多少怪我したって別に平気だと思われるくらいでいなければ。









「…大人げないですよ?」

「君こそねぇ、もーぅ少ぉし僕を敬ってくれないかなぁ…」

「さぁ、それは貴方次第だと思いますけれど…ふふふ」

「……………。それにね、スザクくんとは上手くいきっこないよ」

「あら、どうして?」

「それは言えない〜だから、その余計なおせっかいはやめてくれるかな。
 もね、それに気づいたから今日行動を起こしたんじゃないかなぁ」

「スザクくんに理由があるってことですか」

「そーゆうこと。彼が抱えているモノは簡単なものじゃないからねぇ」

「そんなこと言って。ただちゃんが離れるのが淋しいだけじゃないんですか?」

「煩い。違うよ」









君の流した泪をただ、綺麗だと感じた。
だとしたら、そうでない俺はその理由を知るべきではないのかもしれない。

そうなのかもしれないと思いながら、叩かれた頬にそっと触れる。
まだ、少し熱を持ったままで、熱く。そこに痛みはもう、無かった。









image by 水珠




07/02/07/