さん、さん?」

「……………え…?」

「今日はぼんやりしていますね」

「そう、かな?」

「はい。それに…なんだかとても悲しそうな声をしています」



そんなにわかりやすくしていたつもりはなかったのに。
心配をかけてはいけない、その一番に当てはまる人物の前なのに。
誤魔化せばいいのに、こういうときばかり声が何も出てこない。

ずっと考えていた。どうすればいいのか。
どうすれば、私はあの人を止めることが出来るのだろう。
私はあの人の大切な人ではなくて、権限すらもない。

ただのエゴかもしれない。
でも、いきていて、ほしい。
他の誰でもない、貴方にこれからも。



「ナナリーは…本当に凄いわ。何でもわかるのね」

「何があったのですか?私で良ければお話だけでも聞かせてください」

「うん、ありがとう…」



心配そうに私のことを見上げる。
また、泣きたくなってしまった。

それほどその言葉は私が求めていたものだったから。



さん大丈夫ですよ…泣かないでください」

「…わたし…ね、好きなひとがいるの…でも、きっと駄目ね…」

「どうしてですか?こんなにもその人のことを想っているじゃないですか」

「昨日…気づいたの。あの人が…死にたがっているということに…」



それ以上何も言えなかった。
ナナリーも予想外の言葉に驚いたのか、何も言わなかった。
昨日からずっと泣いてるのに、まだ涙が止まらない。
動けずに泣いている私を声で探し当て、頭を撫でてくれた。

どうしようもなく愛しく思えて、壊さないようにそっと抱きしめた。
ごめんね、こんなこと話して重荷になるだけなのに、本当にごめんね。



「ナナリーごめんね、もうすっかり暗くなっちゃった…」

「いいえ。もう…大丈夫なのですか?」

「うん…ありがとう」

「よかった、涙はもう止まったみたいですね」



そういって微笑んでくれるナナリーが優しくて、大切だと思った。
ただ今は、何も言わずに傍に居てくれる友達がいるだけで、癒された。



「うん。クラブハウスまで送っていくね」

「ありがとうございます」

「お兄さんが心配してるね、きっと」

「どうでしょう?最近お兄様は留守にしがちですから…」

「そうなの?それは淋しいね」

「本当です」



いつも優しくてにこにこしている女の子なのに、
お兄さんのことを話すときはどこか少しだけいつもと違う。
あからさまに少し頬を膨らませたナナリーに笑みが零れた。









クラブハウス前に行くと、お兄さんがきょろきょとしていた。
きっとナナリーの帰りを待っていたんだろうと思う。同時に申し訳ない。
私とナナリーの姿を見つけると、ものすごい勢いで走ってきた。



「ナナリー遅かったじゃないか…心配したんだぞ?」

「すみません…私が引き止めてしまったので…ご連絡しておくべきでした」

「ごめんなさい、お兄様」

「いや…何もなかったならいいんだ」

「それでは、私はこれで失礼します。ナナリーまた明日ね」



そう言って歩いていこうとすると、ナナリーが何か言っているようだった。
私は首を傾げると、お兄さんがこっちに歩いてきた。どうしたんだろう?



「もう今日は遅い、送っていくよ」

「大丈夫ですよ。近いですから…」

「ナナリーがどうしてもって言ってね。駄目かな?」

「いえ…あのすみません。じゃあお願いします」



一人だとまたぐるぐると考えてしまうから 誰かと一緒の方がよかったのかもしれない。
きっとそう思ったのだろう、ナナリーも。

でもお兄さんと何を喋ったらいいのだろう。
流石に何も話さないわけにもいかないし…少し、悩む。



「あの…今日はすみませんでした」

「いや、大丈夫だよ。気にしないでくれ
 ナナリーは君の話をよくしてるんだ…これからも仲良くしてやってくれるかな」

「はい、勿論!」

「よかった………すまない、出てもいいか?」

「ええ、どうぞ」



お兄さんは携帯の通話ボタンを押すと、相手と話し始めた。
正直ほっとした。本当に他に話題がなかったからだ。

あまり知らない男性と話すのは得意じゃなかったから。
共通の話題も特にないし、ナナリーのお兄さんということくらいしか知らない。
きっといいお兄さんなんだろうなぁって思うけれど、
おそらくあっちも親しくない女性と話すのが得意なタイプではなさそうだ。

そんなことを考えてられたのも、ほんの数秒だった。
彼が口にした名前は、あの人の名前。どうして、聞き違いじゃない。



「ああ、スザク。悪かったな、さっき帰ってきたから」









初めて会ったときから、ずっと好きだった。
だけど、自分から触れたのはあのときが初めてだった。
なんて、そんな馬鹿なことに気づいたんだろう。

こんなにも好きなのに。
もう一度触れたい。きちんと話したい。
だけどまだ、それを怖いと思う自分が情けない。









image by Rain Drop




07/03/03/