誕生日なんか知らなくたって、別に生きていけるし。 そんなの全然問題ないのに、真面目な貴方は気にしちゃうのね。 夏休みが明けてもまだ暑い、この教室。 久々の長い通学路にへとへとしながら、やっと辿り着いた私を待っていたのは 仲の良いクラスメイトたちからの「お誕生日おめでとう」コールだった。 そういえば、夏休み前に誕生日だってことを洩らしたっけ。 突然のことに瞳をぱちくりさせたら、どうやら首謀者らしい仁王が満足そうに笑った。 流石詐欺師。………いや、これは詐欺とはちょっと違うけど、びっくりした。 私の誕生日は、夏休みのど真ん中で今年は丁度帰省ラッシュに当たった。 祝ってもらおうにも私自身が帰省してしまうため誕生日を完全に家族だけで過ごした。 それもそれで楽しかったんだけど、物足りなかったのは本当で。それを予想して たまたま席が近かった仁王に「私の誕生日祝え!」なんてことを口にした気がする。 人気のある人間に、普段は大人しい(当社比)私がそんなことを言い出したんだから よっぽどテンションが高かったのだろう。…まぁ、すっかり忘れてたんだけどね。そんなことも。 「どうじゃ、びっくりしたろ?」 「びっくりした…でも、ありがとう」 「どういたしまして。詐欺師たるもの、一度言われたものを実行しない訳にはいかないからのう」 「ふふ、なんかすっごく嬉しい」 「そう言ってもらえたなら、本望ぜよ」 仁王がにやりと笑った。カッコイイなぁ、この人。 もてるのもわかる気がするわ。付き合ったら楽しそうだもん。 そんな風に思って思わず見つめたら、にやにやと笑われた。 「あー…でも俺に惚れたらいかんぜよ?」 「…ち、ちょ、誰が!惚れないわよ!!!」 「おーおー照れるのはいいが、暴力は反対じゃのう」 「あーもーそういうこと言わないー!もー!」 ほんとにもう。 友達としては凄くいいひとだけど、絶対彼氏には出来ないわ。 私の手には負えないタイプ。だって、私の好きなのは……… 「おっと、プレゼント渡し忘れるところじゃった」 「え、そんなのいいのに」 「ここまでやって、そういうわけにはいかんじゃろ。別に大したもんじゃないきに」 「そ、そう?なんか悪いなぁ…」 「12月4日」 「はーい、覚えておきます」 「楽しみにしてるぜよ」 渡されたプレゼントは、可愛らしいピン止めと、何コレ…封筒? 思わず仁王をじっと見ると、笑いながら開けてみろと促される。 一体何が楽しいのだろう。変なものは入っていないよね? そう少し疑いつつ恐る恐る開くと、入っていたのは一枚の紙。 「今日の放課後、テニス部の部室」と一言だけのメモ。 「何コレ?」 「まぁ、行ってみればわかるって。楽しみにしときんしゃい」 「え、ええ?」 何が何だかわからないのを聞こうとしても 結局はぐらかされて、そのまま放課後になってしまった。 テニス部の部室って言っても、全く関係ない私が入れるわけなくて 仕方ないので、その付近で仁王が部活を終えるのを待っていた。 テニス部の練習はあまり来たことがないんだけど ギャラリー多いなぁとか、練習は本当に厳しそうだなぁとか。 そのなかに私のすきなひとを見つけて、こっそり笑った。 ずっと片思いで最後なのに同じクラスにさえやっぱりなれなくて 他の子みたいに部活の練習とかも来れなくて、委員会で一緒ってくらいで ほとんど接点がなくて。諦められないのに、告白する勇気なんか、ない。 「柳生、あいつの誕生日って知っとるか?」 「いえ…残念ながら」 「そーかそーか。とは言っても、もう過ぎてしもうたけどなぁ?」 「そ、そうでしたか…私の情報収集不足ですね…」 「まぁ、そう言うな。良いこと教えちゃる」 「…お言葉ですが、仁王くんのその言い方で良かったことがないんですが」 「そう言わずに、あっちの方をよう見てみんしゃい。ホラ。それにな…」 なんか、仁王が柳生くんと話してるみたい。いいなぁ、羨ましい。 関東大会でダブルス組んでたんだっけ、なんか楽しそうだなぁ… …て、どうして?なんか柳生くんこっち見てない…よね? えええ、こ、こっち向かってきてない?私の気のせい? あ、そっか部室が隣にあるんだもんね、ああびっくりした… 一人で慌てて、我に帰って、なんとも複雑な気持ち。 恥ずかしい…もう、一体何やってるんだろう、わ、私ったら。 「…あの、さん」 「え、えええええや、柳生く…???ど、どうしたの?」 「すみません、驚かせてしまいましたね。先程仁王くんに誕生日だったと伺ったもので…」 「あ、ありがとう…でも、そんなの気にしなくてもいいのに」 うそ。すっごく嬉しい。ありがとう仁王。 誕生日プレゼントなんか、これだけで充分だよ。 笑顔が隠せない。だって、すごく嬉しいんだもん。 祝ってもらえるなんて思ってなかった、だってそうでしょう? 「そういう訳にはいきません。お祝いさせてください」 「え、えと、あの」 「 」 急な言葉に、体温が上昇するばかりで何も言えない。 本当にこの人は柳生くんなの?なんか、いつもと違うよ。 ドキドキしてる、この心臓の音がうるさいくらいに鳴っている。 顔が熱い、体も熱い、なんでこんなことになってるの? 仁王はもしかして、全部知っててセッティングしてくれたのかな。 これ、私のうたたねの夢なんじゃないの?だって、ほら。 「ほ、ほんと、に…?」 「私は嘘は言いません。貴女には…絶対に」 手を取られて、おろおろしてるとそのまま手の甲に口付けをされた。 まるで童話の中の王子様がお姫様にするみたいに。 そこが熱を持っているかのように熱くて、同時に泣きたくなった。 優しい目で私を見て、笑ってくれるからどうしようもなくなって。 抱き締めたくなって、一歩柳生くんに近づこうとしたら、躓いて。 取られたままの手を引かれて、あっちから抱き締められてしまった。 「や、やぎゅうく…」 「す、すみません…!つい…ぶ、部活の途中なので終わったら改めて…」 「はい…あの、待ってる、から」 「ありがとうございます、さん」 なんでこんな風になれたのかは、わからない。 お互い踏み出せなかった気持ちに、ひとさじの詐欺師の魔術。 ありがとう、って言ったら仁王は笑っててなんだか可愛かった。 そんなこと、柳生くんに言ったら怒られちゃうかもしれないけど。 幸せになって欲しいなって思う、なんかそんな気持ちにさせられた。 しあわせになれますように。 私達を幸せにしてくれたんだもの、幸せになって欲しいな。 そう柳生くんに言ったら、少しだけ困った表情をされてしまった。 どうやら、詐欺師の意中の彼女はそう簡単に結ばれる存在ではないようで。 だからこそ私は願わずにはいられなかった。ねぇ、だってそうでしょう? 「…そう、ですね」 「だって、仁王のお陰で私はこうして一緒に居れるんだもの」 「それでは私達は…彼を見守りましょう」 「助けてあげないの?」 「彼がそれを求めたらときは、助けてあげましょう」 少し納得いかなかったけど、私なんかよりもずっと付き合いの長い彼。 頷いたら優しくいつもみたいに笑って私の頭を撫でてくれた。どきどきする。 手を繋いで歩く。見上げた空はどこまでも澄み渡り青く、切ないくらい綺麗だった。 私の中で蘇るのあの言葉、ほら、また顔が熱くなった。 残暑の暑さだと誤魔化して、その手を強く握って、握り返した。 「―すきです。貴女のことが」 080108/ひとさじの魔法をかけて |